ESP-WROOM-32 ( ESP32 ) の保護機能付き電源強化対策の実験

ESP32 ( ESP-WROOM-32 )

USB2.0規格内に収めた時の負荷の電圧・電流の振る舞い

前回の記事の実験で大事なことが抜けていました。

USB2.0規格を満たした負荷にした場合の突入電流(インラッシュカレント)や電圧の振る舞いを測定していませんでした。

まず、下図の様に10uF積層セラミックコンデンサと1kΩの固定抵抗を負荷として、USB 5V VBUSラインのハイサイド差動電圧測定で電流値を割り出してみます。
因みに、USB-シリアル変換ボードの5V出力はUSB VBUSラインに直結されています。

積層セラミックコンデンサは10μFで販売されていたものを使いましたが、LCRメーターで測定したところ、5.9μFでした。
ESR (等価直列抵抗)はLCRメーター U1733C 100kHz で測定したところ、0.05Ωでした。

これの差動電圧測定結果は以下の通りです。
ノートパソコンのUSB2.0ポートの電源を使用しています。

あらら・・・。

USB2.0規格を満たしているのに、この突入電流はどういうことでしょうか?
これはパソコンのUSBポートが悪いのでしょうか。
ソフトスタート回路が全くないUSBポートのようですね。
積層セラミックコンデンサの充電電流が瞬間で4A近くまで振り切れてしまっています。
それに伴い、CH2電圧がオーバーシュートしています。

オーバーシュートというのは、設定値以上に電圧が上がってしまうことを言います。
ここでは5Vという電圧をかけているのに、5.6Vまで上がっています。
これが上がり過ぎてしまい、負荷側の許容電圧範囲を超えてしまうと、素子を破壊してしまう可能性があります。

前回の記事のコメント欄で、度々アドバイスを頂いている、「ねむいさん」から教えていただいたのですが、ESR (等価直列抵抗)が低い積層セラミックコンデンサで、容量を低くした場合、オーバーシュートが発生する可能性が高いとのことでした。

「ねむいさん」から紹介された以下のサイトも参照してみてください。

http://nemuisan.blog.bai.ne.jp/?eid=155302

http://www.tij.co.jp/lsds/ti_ja/analog/powermanagement/hints/power_sel_hint47.page

なるほど・・・、その通りになりましたね。
「ねむいさん」アドバイスありがとうございます。
m(_ _)m

この場合は、負荷が固定抵抗なので、LDOのような入力インピーダンスが高いものを負荷とすると、もっと顕著になります。

では、コンデンサ容量を大きくするために、以下のように積層セラミックコンデンサを並列接続してみます。

容量はほぼ倍になりましたが、ESRは並列のために約半分の0.028Ωになりました。
測定結果は以下のようになりました。

いかがでしょうか。
「ねむいさん」のおっしゃる通り、コンデンサ容量を大きくすればオーバーシュートは減りました。
ただ、逆に電流値は大きくなってしまいました。
ということは、この突入電流の大きさはコンデンサのESRが低すぎることによる原因と考えられます。

では、下図の様にESRが2.17ΩのKMGシリーズ電解コンデンサを使用してみます。

この測定結果は以下のようになりました。

いかがでしょうか。
突入電流が劇的に抑えられ、しかもオーバーシュートは全く無く理想的ですね。

では、この結果の920mAという突入電流の大きさを考えてみます。

前回の記事でUSB2.0規格のコンプライアンステストでは突入電流相当の電荷が 50μC 以下という要求事項がありました。

今回の測定の電流検出シャント抵抗の抵抗値は0.3911Ωです。
オームの法則から、電圧降下が399.1mVならば、1Aの電流が流れていることになります。

また、1C (クーロン) = 1A × 1秒 という計算式により、

50μC = 1A × 50μsec

となると思います。
それから考えると、USB2.0 規格の突入電流限界電荷 50μCというものは、下図の様な四角の面積分になると思われます。

これは私の勝手な解釈なので、間違っていたら教えてください。

そうすると、突入電流の山一つの全体面積は、パッと見た目でも、四角の面積相当分っぽいですね。
つまり、この突入電流は50μC面積相当と言えます。

ということで、この回路の突入電流に限定して見れば、USB2.0規格を満たしていると言えるのではないでしょうか。

以上の結果から、USBポートのVBUS電源のソフトスタート回路が無いものは、ESRの低いコンデンサで受けてしまうと突入電流が大きくなってしまい、オーバーシュートも起きてしまいます。
その場合、ESRの大きいコンデンサを使うと突入電流を緩和できるということが分かりました。

ただ、ESRが大きいということは、USBポートから電流が瞬間的に途切れて、そのコンデンサから電流を供給するような場合、5Vラインの電圧降下が大きくなってしまうので、それを考慮しておく必要があります。
それをカバーできる有効電圧範囲の広いLDO電圧レギュレーターを使っていることが重要になってきますね。

以上から、突入電流はどこまで許されるのかが今まで良く分からなかったのですが、今回の実験でようやく分かった気がします。
ただ、あくまで独学ですので、間違えていたら教えていただけると助かります。

LDO ADP3338 回路の改良

では、USBの入力側コンデンサの選定が決まったとして、今度はLDO 電圧レギュレーターのコンデンサ容量を改良していきます。
前回までの ADP3338 回路では、入力側に 10μF 出力側に 10μF のチップ積層セラミックコンデンサを使用していました。

これでは、入力側に10μFの電解コンデンサを使用してしまうと、USB2.0規格の総容量10μFを超えてしまいます。
先ほど測定した日本ケミコンKMGシリーズコンデンサの実測は8.9μFでしたので、LDOの入力側を1μFに変えます。

そして、ADP3338の出力側については、データシートによると1μFを下回ると不安定になると書いてあるので、必ずそれを上回らねばなりません。
よって、出力側はB特性チップセラミックコンデンサを2μFとしました。
チップインダクタは実験の為に今回は外しました。

LDO入力側はパスコンの用途も含め、積層セラミックが良いので、ESRの大きい電解コンデンサと組み合わせます。

そして、ESP-WROOM-32 の回路は以下のようにしました。

このVBUSラインの電圧電流測定結果はこうなりました。

あれれ・・・。

オーバーシュート気味で、しかも第1次突入電流が大きくなってしまいました。
2次突入電圧は、LDO出力側のコンデンサ充電によるものです。
パッと見た感じでは、50μCはクリアーしていそうですが、やはりオーバーシュートがダメですね。
それに突入電流は1A以下に抑えたいですね。

実は、このパターンでコンデンサをいろいろ変えて実験してみましたが、入力側コンデンサに積層セラミックが入っていると、いくらESRの大きい電解コンデンサを並列に入れても突入電流が大きくなってしまうんです。
しかも、オーバーシュート気味になってしまいます。
これは、私のパソコンのUSBポートがあまりに安っぽい回路だからかも知れません。

しかし、これからどんなUSBポートを使うか分からないので、どのポートでも対応できるようにしたいものです。

ということで、今度はこれを押さえるための対策として、パワースイッチ(電流制限スイッチ)というものを選んで使ってみたいと思います。

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